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会長メッセージ

日本キャリア教育学会会長 下村英雄 [第二期メッセージ]

 このたび、日本キャリア教育学会会長を拝命して、二期目を迎えました。
 一昨年の会長就任以来、最も深刻かつ重大な出来事とは、言うまでもなく新型コロナウィルスによる社会的な大混乱ということになるでしょう。もとより先の見通せない21世紀の社会経済状況に加えて、よりいっそう行く末の定かでない大事件に遭遇し、目下、私達は、手探りのまま何とか普段の生活を成り立たせている状況です。
 大人の社会が揺れ動けば、子供の生活も大きくぐらつきます。学校はじめ多くの組織で各種行事は中止になり、日々の活動に大きな変化を余儀なくされました。キャリア教育の時間が否応なく削られることもあったでしょう。未曾有の出来事が、キャリア教育にどのような影響を与えるのか。子供の未来の何が変化し、何が変化しないのか。どのような力を培い、送り出すべきなのか。キャリア教育を研究する学会として、今後、深い問題関心を持ちながら真摯に検討を進めていく必要があります。

 その際、深刻な状況でキャリア教育を学術的に検討するにあたり、私達が手にしている財産の1つは、連綿と続いてきたキャリア教育・職業指導・進路指導の営々たる研究・実践の蓄積です。
 例えば、本学会学会賞の別称「藤本賞」に名前が冠されている藤本喜八は、第二次世界大戦後の職業指導・進路指導を牽引した研究者でした。その藤本が、最晩年の著作「進路指導論」(1991年)で「進路指導の限界」を指摘しています。要約すれば、変化の激しい時代にあって自己にしても社会にしても曖昧で、容易に変化してしまい、一部分しか捉え切れず、確固たる見通しが得られないことを述べています。そこには、亡くなる2年前、当時81歳だった藤本が、バブルの狂乱に浮かれる日本社会を目の当たりにし、戦火の中から自ら立ち上げた学問に深く疑念を感じた跡さえうかがえます。
 その後、30年を経た私達には、それは限界というより、むしろ、やがて訪れる21世紀のキャリア理論の出発点であったように見えます。現代のキャリア理論は、自己や社会の激変を理論の枠内に織り込む形で人のキャリアを考えます。自己も社会も常に変化すると考え、変化に向き合う術を伝えることをキャリア教育の根本に据えていきます。藤本は何が問題かを言い当てていました。数十年の時を経て、私達は、藤本が提起した問題を引き継ぎ、学問的に乗り越えようとしているのだと言えるでしょう。
 こうして、キャリア教育・職業指導・進路指導は、時代の変化にあわせて、ゆっくりと、しかし確実に進展してきました。幾多の社会の激変の中でも、その根幹において決して揺らぐことはありませんでした。それは、人が先行きを見通せないなか、何らかの有意義な決断をしようとした時、必ずそうであらねばならないという、ある種の本質に、私達の学問が触れているからでしょう。今回も、私達は、現在の苦境に新たな課題を見出し、一部は力を合わせて解決し、一部は将来に向けて手渡していくはずです。

 日々、キャリア教育の実践や研究に取り組んでいる方で、私達の学問的な営為に興味や関心を惹かれる方には、是非、当学会に参加していただきたいと思います。キャリア教育の実践や研究に関する査読付き投稿論文が掲載される年2回発行の学会誌、毎年70~80本もの発表が行われる研究大会、年間各地区で頻繁に行われる研究会、研修会。これは今年からオンラインでも行うようになりました。さらには「キャリア・カウンセラー」という資格も出しています。我々の学会が、このシンプルな名称の資格を出しているのは、この領域で最初期に資格を出したからです。その構想は古く1970年代にまで遡ります。
 自らの取り組みを学問的な見地から振り返り、学会で発表したり、投稿したり、参加することで、一人一人の実践や研究は、普遍的な学術の世界へと接続します。そして、100年以上にわたって続いてきたキャリア教育・進路指導・職業指導の歴史の一部に位置づくことになります。
 もちろん、先人から脈々と伝えられた学統が、遠く昭和の頃から令和の現在に至るまで、キャリア教育に関心を持つ個々の会員の手によって作り上げられてきたことは言うまでもありません。学会活動は、個々の会員の情報発信が主役です。誰もが自分の思いや考えを言える発表の場というのが根本です。これからも会員が相互に学会活動を行いやすい環境を、多くの会員とともに、いっそう整えて参りたいと思います。今後とも、是非、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
 以上、二期目の会長挨拶といたします。
 何卒よろしくお願い申し上げます。


日本キャリア教育学会会長 下村英雄[第一期メッセージ]

 このたび、日本キャリア教育学会会長を拝命いたしました下村英雄でございます。
 日本キャリア教育学会は2018年に40周年を迎えましたが、この記念すべき年に、会長という大役を仰せつかりましたこと、身が引き締まる思いでございます。もとより未熟者、若輩者ではございますが、まずは前会長である三村会長の学会運営方針を引き継ぎ、また、この40年にわたる営々たる歴史と伝統を築き上げた諸先輩・諸先生方にご指導を賜り、さらには、個々の会員の皆様にご協力をいただきながら、粛々と学会運営に取り組んで参りたいと存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。

 さて、昨年12月に三村前会長を大会準備委員長として早稲田大学で開催された日本キャリア教育学会第40回研究大会では、私は事務局を仰せつかりました。発表原稿の登録の仕組みが複雑だったり再登録ができなかったり、発表者の皆さんには随分とお手間をとらせてしまい申し訳ありませんでしたが、過去最大の90件を超える個人発表・ワークショップがあり、盛況のうちに会期を無事終了いたしました。大会準備委員会の一員として、ご発表・ご参加いただいた皆様には厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
 この第40回大会の準備にあたって、私は、発表者の皆さんが丹念に作成してくださった大会発表論文集に掲載する原稿を、誰よりも先に、隅々まで拝読する機会に恵まれました。そして、丁寧に仕上げられた原稿をひとつずつ確認する作業を続けるなかで、この学会は、個々の会員のキャリア教育にかける情熱や強い意志のようなもので成り立っているのだと、つくづく感じとることができました。ですから、例えば、たった一文字、たった一つの数字の間違いを修正したいと連絡してきた発表者の方は一人や二人ではなかったのです。みな、自分の研究や実践にそれだけの真剣な思いを詰め込んで発表を申し込んでいました。その熱量に打たれ、私は、発表者の皆さんの要望には、可能な限り徹底して真摯に応えなければならないと感じました。
 今、改めてその時のことを振り返るにつけ、会長に就任したと言っても、私自身が何か特別な抱負を掲げる必要はないのだと考えております。むしろ、まずは、会員の皆さんの研究や実践の発表の場が、学会誌や研究大会、セミナー、地区部会の研究会その他、大小の様々な機会が数多く確保されるよう心がけたいと思います。今や1,000人にならんとする会員の一人ひとりが、自分の持ち場で自分なりに参加し、発表できるような環境の整備を、地道にやっていくことが何よりも大切だと考えております。
 学会では、投稿論文にしても口頭発表にしてもポスター発表にしても、誰でも発表することができます。キャリア教育の大家の先生から研究者の道を歩み始めた院生に至るまで、あるいは、経験何十年のベテランの先生から最近、キャリア教育に関心を持ち始めた若手の先生に至るまで、学会では同じページ数や時間を割り当てられ、平等に、自らの見解を披瀝することができます。学会が他の会合や集まりと最も違っている点は、少し煩雑ですが一定のルールを守りさえすれば、誰もが自分の考えを言えるというところです。会員の多くが研究や実践を行い、それを大いに発表する。そのためのプラットフォームを用意することが、我々、学会の役職に就く者の最大の使命だろうと考えております。

 一方で、学術団体として、専門的な研究者の皆さんとは、政策科学としてのキャリア教育と学問としてのキャリア教育との関わりについても考えたいと思います。キャリア教育は一義的には日本の教育行政における重要な施策です。この20年間、その重要性が高まることはあっても、軽んじられることはありませんでした。ですから、日本のキャリア教育施策を支えるバックデータや具体的な教育実践に資する研究が、我々の学会に求められていることは言うまでもありません。
 しかしながら、一方で、国の施策は、その時々の政策課題を達成すべく、限りある公費の支出を抑えながら、何が最も効果的で最重要な取り組みなのかを優先順位をつけて、慎重に取捨選択しつつ推進していくものです。ですから、国の施策として推進されるキャリア教育の外周には、常に、その時々のキャリア教育が潜在的に選びえた選択肢となる有力な取り組み、実践、研究が、分厚く用意されていなければなりません。
 すなわち、政策の近傍にある学会の使命とは、国の施策として選び取られたキャリア教育と正しく向き合い積極的に関わり合いつつも、同時に、その周辺に可能な限りたくさんの選択肢を用意しておくことだと言えるでしょう。目下、主流のキャリア教育のオルタナティブを準備しておき、時宜に応じて、政策担当者が潜在的に検討しうるメニューとして提示できるようにすることが重要になります。
 今では当たり前のスーパーのキャリア発達理論も、1950年代には、それまでの考え方とは違う最新の理論として日本に紹介されました。今や文部科学省の資料にも厚生労働省の資料にも登場するサヴィカスのキャリア構築理論も初出から約20年の時を経て多くの人の目に触れるようになりました。今、まさに研究者が研究していることが、やがて長い年月を経て社会に受け容れられ浸透していきます。そのダイナミズムを私達は研究を進めていく上で常に頭の片隅に置き、共通に掲げるべき1つの目標として考えていきたいです。

 最後に、だからこそ「キャリア教育」の言葉は、もっともっと広い意味で解釈される必要があるとも思います。学校現場で、先生方がどのように子ども達に将来の進路や仕事、キャリアについて指導するのかは、もちろん最重要の課題です。ただ、そこに確固たる中軸があるからこそ、我々は、より自由に、より広く、より遠くに向かってキャリア教育を拡張することも可能となります。
 例えば、LGBTのキャリア発達の議論も1990年代の前半に初めて論文で見た時には、何を問題にしているのかさえ分かりませんでした。それが、今、きちんと社会的に受け止められ重視される重要なトピックになりました。同様に、キャリア教育の領域には社会的な弱者や不利益を被りやすい子ども達に向けた社会正義のキャリア教育論もあれば、二酸化炭素を排出しない職業や環境を守る職業へ子どもたちを導こうとする環境主義的なキャリア教育論もあります。あるいは、そうした新奇なトピックだけでなく、昨今の先進各国のキャリア教育のトレンドが職業選択からスキル形成へと向かっているなか、我が国においても職業教育や産業教育との接点を見直し、いかにキャリア教育の中に職業的なスキルの習得機会を取り入れていくかは、古くて新しい問題です。
 他にも「AI」「人生100年時代」「働き方改革」など、人々のキャリアに大きな影響を与える社会動向は、次から次へとやってきます。自ずと求められるキャリア教育のバリエーションも拡大していくことになります。そうした狙いや意図を込めて、昨年、日本キャリア教育学会では40周年を記念したミッション・ステートメントも作成いたしました。
 ですから、今は、学校の先生方や大学の研究者が多いこの学会ですが、例えば、企業で働く皆さんや、フリーで活動しているキャリアカウンセラーの方、広く若者支援に関心を持つNPOその他の団体の皆さんにも、大勢、参加していただきたいと思います。また、心理学や教育学の研究者が多い学会ですが、その他の学問領域の研究者もこの学会には何人もいます。社会学、経済学、経営学などを専攻する先生方や研究者の皆さんにも是非、ご参加いただきたいです。現行のキャリア教育に足りないところがあるのであれば、外側からご指摘をいただくのみならず、是非、内側からもご批判をいただき、大いに刺激を与えていただきたいと思います。

 学会創立40周年は記念すべき年ではございましたが、年が明けて、次なる50周年に向けて既にカウントダウンがはじまりました。様々な可能性と課題を等しく両の腕に抱えつつ、その第一歩となる最初の2年の任期を全うし、次なる10年に向けて基礎を作って参りたいと考えております。
 とは言え、私ひとりで何ができるということもございません。会員の皆様のお一人お一人の力があってはじめて成し遂げられるものと考えております。ついては、今後とも、何卒ご協力を賜りますようお願いを申し上げる次第でございます。
 以上、私の新会長就任の挨拶とさせていただきます。
 今後ともよろしくお願い申し上げます。