情報委員会

委員長:
下村英雄(労働政策研究・研修機構)
副委員長:
高綱睦美(愛知教育大学)
委員:
海藤美鈴(江東区立浅間竪川小学校) 京免徹雄(愛知教育大学) 吉中淳(弘前大学)
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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第87号(2017.4.10発行)

                   発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                 http://jssce.wdc-jp.com/
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■ 【開催報告】北海道・東北研究地区部会2016年度第2回研究会
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 平成29年3月18日(土)に弘前大学教育学部にて北海道・東北地区部会の
平成28年度第2回研究会・総会が行われた。
 研究会の講師は秋田県立大学・総合科学教育研究センターの渡部昌平氏で
ある。本ニューズレターの2月号にて、筆者が書評を執筆した「はじめての
ナラティブ/社会構成主義キャリア・カウンセリング」の著者でもある。今
回のテーマは「ナラティブ・アプローチを教育に生かす~相談から教育への
拡張」であった。
 当日は、小グループに分かれてワークショップ中心をまず行った。具体的
内容としては、どんな意見が出ても否定をしないという約束のもとでのブレ
ーンストーミングである。「煉瓦の目的外の使い方」といったテーマから徐
々に「夫婦間の問題」などの人間関係上の問題へと移っていった。主眼は
「解決志向」に置かれた。渡部氏は、問題を解決できないのは、しばしば思
考が悪い意味で習慣化しているからであると説く。今回のワークショップの
ねらいは、ほかの人は自分が思いも寄らなかった角度から問題にアプローチ
しようとすることを知ることで、そのような習慣化した思考から離れ、自分
の気づいていなかった資源に目を向けるという見方を体験的に学ぶというと
ころにあった。それは言い換えれば、「新たなナラティブ(道徳や倫理、あ
るいは将来像)を構築していく」という考えを学ぶということでもある。
 議論は書評において提起した「若者はナラティブの構築に必要な経験を欠
いているのではないか」にも及んだが、渡部氏の答えは「それで困ったこと
は一例のみ。後は漫画に対する関心からでも広げられる」という自信に満ち
たものであった。参加者の反応はかなり好評であり、参加者同士の踏み込ん
だ交流が行えたことも大きな収穫であった。

    (文責:キャリア教育学会北海道・東北地区部会代表 吉中 淳)
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■ 【コラム】キャリア教育と入学式

                      愛知教育大学 京免 徹雄
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 4月といえば桜、桜といえば入学式…を連想するのはきっと私だけではな
いですよね。会員の皆様の中には、ご家族やご友人(あるいはご自身)が、
この春から新たな学校に進学される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 入学式は卒業式と並んで、日本人にとって最もありふれた行事の1つです
が、海外ではこのようなセレモニーを行わない国も少なくありません。例え
ばフランスの学校では、入学初日に児童・生徒は直接教室に入り、クラスご
とのガイダンス後に授業がはじまります。一方で、日本では入学式はれっき
とした正規の教育活動であり、特別活動に含まれる「学校行事」、その中で
も「儀式的行事」に分類されます。釈迦に説法であることを重々承知しつつ、
平成20年版中学校学習指導要領によると、儀式的行事の内容は「学校生活に
有意義な変化や折り目をつけ、厳粛で清新な気分を味わい、新しい生活の展
開への動機付けとなるような活動」とされていいます。つまり入学式は、子
どもたちに自己のキャリアの節目を自覚させ、これから始まるキャリアステ
ージに希望や意欲をもって参画できるようにする「移行支援」の一環である
と考えることができるでしょう。
 特に近年では、小1プロブレム、中1ギャップ、高1クライシスなどが問
題となっており、学校制度や生活環境の変化に適応できず、不登校に陥って
しまう児童・生徒も少なくありません。この点でも、入学式は「学校で行わ
れる最初のキャリア教育」にならなければいけないと思います。もちろん入
学式は、行事の目標をきちんと設定し、1人1人が活躍できる役割をプロデ
ュースすることによって、新入生を迎え入れる側の在校生にとってもキャリ
ア教育になり得るでしょう。
 しかしながら、入学式を含めた儀式的行事について、キャリア教育の観点
からの分析はあまり進んでいないのではないでしょうか。例えば、学校行事
の残り4つ(文化的行事、健康安全・体育的行事、旅行・集団宿泊的行事、
勤労生産・奉仕的行事)の効果測定はそれなりに行われていますが、儀式的
行事に関しては少なくとも私はみたことがありません。前述のように、儀式
的行事は極めて日本に特徴的な取り組みであり、また教科外活動の中で最も
古い歴史をもった伝統的教育実践でもあります。今後、研究が進展し、児童
・生徒のキャリア形成に資する入学式の在り方について議論されることを願
ってやみません。
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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第86号(2017.3.13発行)


                   発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                 http://jssce.wdc-jp.com/
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■ 書評
  「キーワードキャリア教育 生涯にわたる生き方教育の理解と実践」
     (小泉令三・古川雅文・西山久子編著 北大路書房,2016)

                       愛知教育大学 高綱睦美
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 キャリア教育の必要性が叫ばれるようになってからずいぶん経過し、教育
関係者のみならず,さまざまな立場の方が子どもたちのキャリア形成に関わ
るようになってきた。
  一方で「キャリア教育」という言葉は多くの方が耳にしているものの、そ
の取り組み方は多様で、何をキャリア教育の核にするのかということについ
ては実践者によって違いがあり、その多様さがキャリア教育に対する捉えに
くさの一因となっている。

 新学習指導要領をはじめ教育が大きく動き出そうとしている今、改めてキ
ャリア教育が何を目指しているのか、そして何を核にして取り組むことが重
要であるのか理解しておくことは、これからの社会を生き抜く子どもたちを
支援する上で重要であろう。しかしそうした中、キャリア教育をメインテー
マとしつつ、網羅的に取り扱っているテキストはまだそれほど多くない。

 その点、本書は、キャリア教育の位置づけや理論から諸外国における取組
みまで幅広く扱うと共に、学校段階のみならず生涯にわたるキャリア教育に
ついても取り上げており、キャリア形成に携わる者にとって知っておくべき
知識について、キーワードを挙げながら簡潔に記述すると共に、実践のヒン
トを示してくれている。
 さらに、各章末に記されているColumnでは市民性教育や学習意欲とキャリ
ア教育の関わり、保護者の役割や時間的展望との関わりなど、キャリア教育
を進めていく際に気になるテーマを深く考えていくきっかけを与えてくれる。

 教育現場はますます忙しさを増していく中、本書を読み込みすべてを理解
した上で実践に移すことは難しいかもしれないが、関係する章を手掛かりに、
理論と実践を行き来しながらそれぞれの実態に合わせて試行錯誤を重ねてい
くことがこれからのキャリア教育には必要であり、本書はそのよりどころと
して有効な一冊となると考えている。
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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第85号(2017.2.13発行)

                    発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                  http://jssce.wdc-jp.com/
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■ ARACDとは~日本キャリア教育学会とのかかわり~
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ARACDは、1970年にアジア地区での教育と職業のガイダンスに携わる者たち
の学会として、the Asian Regional Association for Vocational and 
Educational Guidance(ARAVEG)第1回研究大会を台湾で開催した。その後、
1997年にthe Asian Regional Association for Career Development(ARACD)
と名称変更を行った。ARACDは、キャリア発達や人材開発を促進する教育、
ビジネス、政府などにおける個人や組織間の情報や経験を支援し交換し合う
人々の共通理解や連携を強化し、アジア全体の繁栄と福祉と平和に寄与する
ことを目的としている。

第2回以降の研究大会開催国は以下である。(  )内は開催年である。
日本(1974)、フィリピン(1997)、マレーシア(1980)、インドネシア
(1983)、インドネシア(1992)、日本(1994)、台湾(1997)、シンガ
ポール(2001)、インドネシア(2013)、日本(2015)、韓国(2017)。
発足してから47年を経過したが、ようやくここ3回の開催が定期的に行われ
ている。開催国における政治や経済の不安、自然災害などに見舞われなが
らも、ARACDは、究極であるアジアの繁栄と平和を目指して活動を続けて
きた。

わが国の日本進路指導協会や日本キャリア教育学会(前日本進路指導学会、
元日本職業指導学会)がながらくその運営を支えてきた。発足のきっかけ
となった1967年のARAVEG 集会や発足を決定づけた1969年の運営委員会の
双方が東京で開催されたことからもその深いかかわりが半世紀に及んでい
ることがわかる。

現在の役員は以下である。会長はARACD研究大会の前回開催国、副会長は、
前々回の開催国及び次回開催国から出すことになっている。

◆会 長:三村隆男(日本)
◆副会長:H. Sutijono, Drs., M. M.(インドネシア)
     Kim, Hyuncheol(韓国)
◆事務局長:岡部敦(日本)
◆理 事:Mantak Yuen(香港)、Raza Abbas(パキスタン)、
     Hsiu-Lan Shelley Tien(台湾)、Salim Atay(トルコ)、
     Saeid Safaei Movahhed、Maryam Behnoodi(イラン)、
     Steven Krauss(マレーシア)、
     TAN Soo Yin, Ph. D.(シンガポール)、
     藤田晃之(日本)、川崎友嗣(日本)
◆事務局:京免徹雄(日本)、家島明彦(日本)
◆顧 問:Darryl Takizo Yagi(米国)、
     Lui Hah Wah Elena(シンガポール)、
     Mohamad Surya(インドネシア)、
     萩原信一(日本)、下村英雄(日本)

       (文責:日本キャリア教育学会会長、ARACD会長 三村隆男)
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■ 書評:『はじめてのナラティブ/社会構成主義キャリア・
      カウンセリング-未来志向の新しいカウンセリング論』
     (渡部昌平著、川島書店)
                         弘前大学 吉中淳
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 キャリア・カウンセリングにおいて「未来」というテーマは厄介である。
キャリア教育は基本的に未来の準備をさせる活動である。ところが、カウン
セリングで著名なロジャースは、「今、ここが大事」と未来のことに言及す
るのを避けているかのようである。
 また、因果関係の解明こそが使命と考える研究者たちは、「未来はある意
味で確定しており、後は要因を特定するのみ」といった「決定論」を暗黙の
うちに前提としているともいえる。研究者が研究についてそう考えるのは自
由だが、一般の人々が自らの人生について、そのような決定論的見解をもち、
しかも、その内容がネガティブであったら、その人生は息苦しいというほか
ない。
 本書の「ナラティブ/社会構成主義」というのはこの難題に対する一つの
回答といえる。未来は客観的に決まっているのではなく、本人の気づきやナ
ラティブによって構築されるものであると。それはある意味で、近代科学に
対する挑戦にも見える。
 本書は、「はじめての」とあるように、優しい語り口で、概念図をふんだ
んに利用しながら社会構成主義によるキャリアカウンセリングをわかりやす
く説明している。本書を片手に取り組めば、筆者のような実践の素人でも、
ともかく一通りのことはできそうという見通しを与えてくれる。
 とはいえ、気になったこともある。本書でいう「解決」とは結局、クライ
エントの納得なのか。だとしたら、クライエントが一定の理性的で妥当な判
断ができるということが前提とされよう。最近の若者は「男はお笑い・女は
ファッション」が関心事であるとのことだが、ナラティブの構築に必要な経
験を欠いていることも多いのではないか。実際、本書の事例は、この技法の
土俵に乗せるまでの著者の苦労の記録にもみえる。本書の技法の前提を満た
すための高校までのキャリア教育という課題も浮き彫りになったように感じ
た。
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