情報委員会

委員長:
下村英雄(労働政策研究・研修機構)
副委員長:
高綱睦美(愛知教育大学)
委員:
海藤美鈴(江東区立浅間竪川小学校) 京免徹雄(愛知教育大学) 吉中淳(弘前大学)

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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第90号(2017.7.10発行)

                   発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                     http://jssce.wdc-jp.com/
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■ 【開催報告】
    (特集)アジア地区キャリア発達学会 (ARACD)第12回研究大会①
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 2017年5月17日と18日の両日、韓国ソウル市シェラトンソウル江南パレス
ホテルにて、アジア地区キャリア発達学会(Asian Regional Association for
 Career Development)国際大会が開催されました。延べ人数で200人ほどの
参加者があつまりました。開催国である韓国をはじめ、隣国である日本、
中国(香港)、インド、インドネシア、マレーシア、パキスタン、イラン、
シンガポール、台湾、アメリカ(特別顧問)からの参加者が集まり意義深い
交流を することができました。

 大会初日の午前中は、ARACD理事会および総会を開催し、今後のARACDの進
め方について活発な議論の場となりました。ARACDは、1967年に前身となる
Asian Regional Conference on Educational and Vocational Guidance
(ARAVEG)の実行委員会が東京において開催され、1970年に台湾で開催された
研究大会で国際組織として結成されました。その後、1997年に再び台湾で研
究大会が開催され、当時の理事会で現在の名称への変更が決議され今日に至
っています。発足の段階から数えると今年が50年目、ARACDとしては20年目
となります。

 理事会では、ARACDの果たす役割についていくつか提言がなされました。
特に、Career Developmentという欧米発祥の価値観・理論に依拠した研究お
よびそれに基づく実践が主流となりつつある現状において、アジア特有の問
題について取り上げ、アジアの価値観で捉えなおしていく必要があるという
力強い発言があり、多くの理事の賛同を得ました。具体的な例としては、キ
ャリア支援に関するアジア・スタンダードの基準を作成し、ARACD主催のワ
ークショップおよび研究大会などへの参加によって、クレデンシャルを与え、
ARACDとしてキャリア・カウンセラーおよびキャリア・コンサルタントの資格
を授与することが可能となるような組織に発展させるべきであるとの提案が
なされました。すぐに実現することが難しそうな内容ではありますが、アジ
アに目を向けた研究活動・実践活動のニーズが高まっていることが明らかと
なりました。

 以上、今回のソウル大会では、今後のARACDの活動に対する大きな期待と
それを実現するための課題について改めて認識を深め、アジアの若者の社会
的・職業的自立を支援し、平和を維持するために連携・協力を深めることで
一致することができました。今後は、加盟国で開催されるキャリア教育・キ
ャリア支援関連の研究会やワークショップなどの情報を随時共有しARACDの
HP上(www.aracd.asia)で公開することになっています。日本キャリア教育学
会会員の皆様におかれましては、是非ご高覧の上、積極的に参加していただ
きたいと思います。なお、次の研究大会は、2019年度にマレーシアプトラ大
学(University Putra Malaysia)の主催で開催されることが内定(現在、細
かな運営方法について検討中)しています。多くの皆様のご参加をお願いい
たします。

 (文責:ARACD事務局長・日本キャリア教育学会国際交流委員長 岡部敦)
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■ 【開催報告】
    (特集)アジア地区キャリア発達学会 (ARACD)第12回研究大会②
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 2017年5月に韓国ソウルで開催されたアジア地区キャリア発達学会
(Asian Regional Association for Career Development: ARACD)の国際大
会に参加してきました。本大会は韓国の青少年政策研究院(National Youth
 Policy Institute: NYPI)との共催であり、非常に立派で豪華な大会でし
た。私はARACDの会計担当として、また、本学会の国際交流委員会委員とし
て、大会前日から会場(ホテル)入りしており、準備の段階から見ていまし
たが、大会委員長の金先生やNYPIスタッフの方々のホスピタリティには感銘
を受けました。

 初日の午前には理事会および総会が開催され、各国の代表者がARACDの今後
の在り方について議論をしました。初日の午後には基調講演とカントリーレ
ポートがあり、10カ国以上の代表者から報告がありました。各国の状況を学
ぶことができ、大変勉強になりました。2日目の午前には個人研究発表と特
別ラウンドテーブルがあり、各国の研究者が各自の研究について発表しまし
た。私も口頭発表を行いましたが、異なる国や文化の視点から有益なコメン
トやアドバイスをいただくことができました。2日目の午後には韓国の学校
視察ツアーがあり、現場の先生から話を聞くことができました。

 今回得たものは多数ありますが、ここでは2つだけ紹介します。1つは
「契機」で、同じアジア地域でありながら文化や考え方が異なる諸外国の研
究者との交流を通して、自身の研究の価値や意義をグローバルな視点(特に
アジアの視点)から捉え直す良い機会を得ることができました。もう1つは
「動機」で、諸外国の研究者から「英語で書かれた論文はないのか」と抜刷
を求められたことなどを通して、自信にもなりましたし、将来的に自身の研
究を国際的に展開してみたいなという想いを強くしました。北米や欧州の国
際学会には過去に何度か参加したことがありますが、実はアジアは今回が初
めてでした。今後はもっとアジアの国際学会にも積極的に足を運んでみよう
と思います。
                    (文責:大阪大学 家島明彦)

※ARACD韓国大会フォトギャラリー
https://goo.gl/photos/DCoVv5ZmDZyaUdri9
学会員のみ閲覧可といたしますので、ファイル写真の二次利用やURLの転載は
ご遠慮ください。
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■ 【書評】
  『経験資本と学習――首都圏大学生949人の大規模調査結果』
  (岩崎久美子・下村英雄・柳澤文敬・伊藤素江・村田維沙・堀一輝著
                          明石書店 2016)

                        早稲田大学 三村隆男
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 2017年3月大田区より『大田区子どもの生活実態に関するアンケート調査
報告書』が示された、学校のおける貧国が取りざたされる中、同区が三つの
要素で生活困難層を特定したものである。その一つに「子どもとの経験や消
費行動、所有物に関する項目」があり、その中には、「海水浴に行く」「博
物館・科学館・美術館に行く」「キャンプやバーベキューに行く」などの項
目があった。

 書評にもかかわらず、大田区の調査報告書を最初に挙げた理由は、同書の
「経験資本の格差はそのままキャリア形成上の格差へとスライドする」
(224頁)や、さらに「学習経験がある種の抽象的な方略として整理されて、
現実の学力レベルと相関する。個々の経験が資本として蓄積されて、その後
の生活と関連する一つの実相を観察できる」(223頁)を支持する事例とし
たかったのである。
 同書は、前半の首都圏の大学生に対する大規模調査から人生における経験
がキャリア形成にどの様に関連づくかに触れ、キャリア研究における「経験
資本」という概念を示した。ここでの引用は、すべて著者のひとり下村英雄
氏執筆の終章からである。

 氏のさらなる主張「キャリア教育が、時に現実離れした夢や希望に駆り立
てるかのような口ぶりであるのは、どこかで若者や子どもの人生をリセット
するような視点を確保するためである。仮によそのような形で現実から離れ
るのでなければ、生まれてからこの方、好むと好まざるとにかかわらず蓄積
されてきてしまった経験資本の格差におしつぶされ、どこまでも苦渋を噛み
締めつつ生きなければならないであろう」(234頁)はキャリア教育実践が
抱える葛藤を見事に言い当てている。

 職場体験、就労体験をはじめとする学校におけるキャリア教育の取り組み
は学校が担うべき子どもたちの経験資本の平準化に大きく貢献するものであ
る。こうした体験活動について、従来の啓発的経験からさらに踏み込んで
「経験資本の格差」の視点からその意義を検討する時代が到来したと言える。
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■ 【コラム】酪農家民泊体験から捉える教育大生のキャリア意識の変容

                     北海道教育大学 半澤礼之
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 北海道教育大学は5つのキャンパス(札幌・函館・旭川・岩見沢・釧路)を
有しており、私は道東に位置する釧路のキャンパスに所属しています。本キ
ャンパスでは、第一次産業が盛んであるという道東の特性を生かし、体験を
通じた食育指導力の向上や地域とのつながりの重要性の理解を促すことを目
的として、地元の農協の青年部の方々の協力のもと、酪農家宅での宿泊作業
体験授業(民泊体験実習)を行っています。私は民泊体験実習に関わるよう
になって4年目(実習自体は5年目)になるのですが、この実習は受講生に
とって「将来学校教員になる自分」という彼らのキャリア意識を深める上で
重要な機会になっていると考えています。

 本実習は「宿泊体験」+「振り返りのための個人・グループワーク」の二
部構成になっており、私は主に後者に関わっています。ワークでは、先述し
た本実習の目的に沿う意見が学生から多く出されるのですが、もう一点重要
な意見のカテゴリとして、「将来教師になる自分を見つめなおす」というも
のがあげられます。ある地域に留まり、そこで何代にもわたって酪農を続け
ている方々とのやり取りは、地域間を移動し(本学の学生のほとんどは釧路
出身ではない)教師という職業を自ら選択した(と自分は考えている)彼ら
にとって、自身のこれまでやこれからを捉えなおす機会になっているようで
す。

 実際、実習前後に受講生に行った調査では、「見つめなおし」に関するデ
ータは十分ではないものの、この体験が彼らの大学生活での学び、そして自
らのキャリアに関わる将来展望に影響を与えている可能性があることが示唆
されました(半澤・宮前,2015)。

 ここまでの内容ですと、「大学生が企業にインターンシップに行って新し
い視点を得る」といった従来のキャリア教育と大きく違いがないように見え
ると思われます。私は今後、この活動を「地域と教育」というキーワードで
従来とは異なった視点から深めていきたいと考えています。

【引用文献】
半澤礼之・宮前耕史(2015).「酪農家民泊体験実習」プログラムを通じた
大学生の知識構造の変化と将来展望形成 日本教師教育学会第25回研究大会
発表要旨集,186-187.
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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第89号(2017.6.13発行)

                   発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                 http://jssce.wdc-jp.com/
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■ 【開催報告】中部地区研究部会 第1回研究会
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 平成29年5月21日(日)13:00~16:00に一宮市市民活動支援センター
AB連結教室において中部地区研究部会第1回研究会が開催されました。
 研究会の講師は、石黒康夫氏(神奈川県逗子市教育委員会教育部長)、
演題は「 子どもの良さを伸ばす『認める指導』の組織的な推進 」でした。

 石黒康夫氏は昨年の演題「変化をおこす技法~ミルトン・エルクトン博士
に学ぶ~」を講演頂き、参加者の熱狂的な支援、共感共鳴があり、時間が足
りない状態で、次回も必ず講師に呼びますとの約束で修了した経由があり、
今回の講演に繋がりました。サブタイトルは「石黒康夫先生180分ノンス
トップセミナー」で熱い講演が展開されました。
 先生との出会いは、國分先生の日本スクールカウンセリング協議会の東京
セミナーの分科会に伊藤正秀氏と受講して、終了後二人で講師控え室に飛び
込み中部地区研究部会の講師をお願いして快諾頂いたこと始まりました。

 講演は「認める指導」とは、背景となる考え方は、メタ認知能力強化の
原理、嫌子より好子、グリーンゾーンという考え方、中学校で用いた実際の
例、指導の基準(考え方)1、大切にする 2、素直にふるまう 3、話し
合って解決する 4、時間を守る 5、自分をコントロールする等、永年の
教育現場、中学校校長先生でのスキル、ノウハウに満ちた講演で来年に繋が
る受講者の共鳴を誘いました。

 もっと時間が欲しいと皆さんが言われました。
 私は来年も呼びたいと考えます。

    (文責:日本キャリア教育学会 中部地区研究部会会長 長坂廣幸)
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■ 【書評】
   『学校にいくのは、なんのため?
             読み・書き・計算と学ぶ態度を身につけよう』
   『「仕事」と「職業」はどうちがうの?
             キャリア教育の現場をみてみよう』
   『どうして仕事をしなければならないの?
             アクティブ・ラーニングの実例から』
          (稲葉茂勝著, 長田徹監修 ミネルヴァ書房 2017)

                       愛知教育大学 京免徹雄
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 本三部作は、シリーズ「変わる!キャリア教育」として、現役の文部科学
省生徒指導調査官の監修のもと、刊行された。その最大の特色は、小・中学
生を対象にキャリア教育について解説した本だということに尽きる。写真や
図表が多く、文字にはすべてルビが振ってあり、さらに巻末に用語解説があ
るなど、大変に分かりやすい内容になっている。

 教員向けの実践集や指導書は既に多く刊行されているが、子ども向けにつ
いて評者は管見の限り知らない。しかし、新学習指導要領で主体的な学びが
強調される中にあって、児童・生徒自身が学校で行われているキャリア教育
という活動が何であるかを知り、その意義を理解することは決めて重要であ
ろう。以下、その概要を簡潔に紹介したい。

 第1巻では、学校の起源や学校の歴史、発展途上国を中心とする世界の教
育事情に触れながら、能力(読み・書き・そろばん)に加えて、主体的に学
習に取り組む態度を身に付けることの重要性が語られている。さらに、失業
後の就職にも触れ、そのために学校において将来を設計していなければなら
ないことも述べられている。最後に、全国キャリア教育研究会について紹介
されており、先生自身の学び続ける姿が提示されているのは、印象的である。

 第2巻では、仕事、家計、職業、会社、産業といった主に経済に関わるキ
ャリア教育の主要概念が解説されている。特に、仕事とは役割のことであり、
係活動など日常での役割が将来につがなっていることが、実感できるように
なっている。また最後には、「楽しいキャリア教育の授業レポート」として、
アグリスクール、企業体験、観光ガイド、子ども門前市など7つの実践事例
が紹介されている。

 第3巻では、大人が働く理由として、収入を得ること以外に「自己実現」
があること、また働く人の税金によって社会福祉などが成り立っていること
が説明されている。また、具体的なデータをもとに、卒業後の進路について
考えさせている。後半は、キャリア教育の授業レポートが3件紹介されてい
る他、先生がキャリア教育でどのような工夫をしているかが示されており、
子ども自身にキャリア教育を意識化させる内容になっている。

 以上のように、多くの示唆に富んだ本シリーズであるが、気になる点もあ
る。全体を通じて「勤労の義務」が強調された構成になっているが、第3巻
ではこれが「ニート」「パラサイトシングル」「非正規雇用労働者」とセッ
トで登場する。確かに子どもにとって関心をもちやすいテーマであるが、
「社会的・職業的自立」=「正社員を目指すこと」という誤解を招かないた
めにも、若干フォローが必要ではなかったか。また、若者を使い捨てにする
企業が問題視される現状を鑑みた場合、「勤労の義務」だけでなく、「働く
人の権利」にも触れてほしかったと個人的には思う。

 とはいえ、冒頭に述べた本三部作の価値はいささかも揺るぐものではなく、
キャリア教育を充分に認知してこなかった子どもや保護者に向けて、その全
体像を明らかにした貴重な書であることに変わりはない。学校や家庭におい
て、大人と子どもが本シリーズを手に取って、キャリアについて積極的に語
り合うことを期待したい。もちろん、キャリア教育の研究者・実践者にとっ
ても、「子どもにいかに伝えるか」を考えさせられる文献であり、一読をお
勧めしたい。
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■ 【コラム】LGBTとキャリア
                    日本福祉大学 矢崎 裕美子
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 2年生対象の「キャリアデザイン基礎」という授業で、学生に自分のライ
フラインを書く機会を設けた。ライフラインは生まれてから現在までの感情
の変化をグラフ化するものだが、過去、現在、未来の連続性を意識してもら
うために、10年後の未来までを描くようにした。私は提出されたライフライ
ン約100名分を見ながら、ふと手を止めた。ある女子学生の記述である。
「大学卒業後は、数年働いたら結婚し、出産…」と未来の感情軸はどんどん
上がっていく。卒業後の未来として描くものとしては大変一般的なものだ。
しかし、彼女は本当にそのような自分の未来を描いたのだろうか、と疑問に
思った。
 彼女は私のゼミ生でもあり,LGBT当事者であることは恐らく周囲にカミン
グアウトをしておらず、私自身彼女の言動から推測したのであった。ゼミの
最後のレポートは「自分のキャリアのあり方について、ゼミで学んだことを
踏まえて論じよ」というもの。彼女のレポートには以下のように書いてあっ
た。
 「キャリアデザインの授業でライフラインを書いた時に周りの皆が何歳で
結婚して、子どもを産んでと言っているなか、結婚なんてできるのかもわか
らなくて、子どもなんて絶対にできないのだと分かっていて、どうしても自
分の未来が想像できなくて困った。…最近は日本でもパートナーシップ条例
として認められているかのように思える同性婚。なぜ許可がいるのだろうか。
いろんな疑問や不満が限りなくある。その中で自分のキャリアを考えるとい
うことは、自分の真ん中の部分を知るということ、人と関わるうえで変化し
ていくということだと思う。」
 一人でつらさを抱えて、将来の見通しも持てないでいることに胸が締め付
けられたが、彼女が「人と関わるうえで変化していくこと」と自分を捉え、
「卒業後は、自分と同じようなLGBTの人たちを支援できる仕事をしたい」と
レポートを前向きに締めくくったところに希望が持てた。そしてそのレポー
トを何回か読んでいるうちに、彼女は周囲にカミングアウトができないので
はなく、しないのではないか。カミングアウトをしないこと自体が特別視さ
れるのでなく、この社会で自然に生きたいというメッセージなのではないか
と感じるようになった。
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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第88号(2017.5.10発行)

                   発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                 http://jssce.wdc-jp.com/
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■ 【コラム】「研究する力」はウリになるか?
                       南山大学 浦上 昌則
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 「先生なら何をウリにしますか?」
 就活中の学生から、時々このような質問を受けます。大学に研究者として
籍を置く身ですので、「研究する力」としか答えようがありません(他に特
技もないし…)。とりあえず、研究に関してはプロでいられるよう努力して
います(そのつもりです)し、それがあるからこそ雇われていると思ってい
ます。
 「それってウレます…?」
 先のように答えると、大抵は怪訝な顔でこのように聞かれます。「買い手
次第じゃない」というのがいつもの答えですが…。
 でもこの話には続きがあって、正直なところは「研究する力」は売れると
信じています。課題を見つけ、適切な方法を用いてその現象のメカニズムを
解明し、そこから妥当な結論(対応策)を導く。これが研究する力の基本だ
と思っています。専門はどうであれ、これは研究する力に共通する要素でし
ょうし、便利なことに、多様な場面に応用できます。この力を求めない雇用
主がいるでしょうか?
 たとえば教師にとっても、研究する力は不可欠でしょう。授業や指導を改
善していくために、研究する力はどうしても必要です。これがなければ、
「例年通り」とか「マニュアル通り」の指導、カンに頼った指導しかできな
くなってしまいます。これでは教師としての成長は望めないでしょう。カウ
ンセラーや他の職業にしても同じだと思います。その職での成長は、そこで
の経験と研究する力によってうながされると思います。
 だから私は、どんなに怪訝な表情を向けられても、学生に「研究する力が
大事」と言い続けようと思っています。もっとも、それくらいしかできない
のですが…。

 さて、今回のこの原稿は、研究推進委員会が学会webでの掲載を企画して
いる、連載「研究をする」ともつながるものです。研究を行っていく上で役
立つ読み物を提供していきたいと考えています。5月下旬からスタートを予
定していますので,どうぞご覧ください。
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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第87号(2017.4.10発行)

                   発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                 http://jssce.wdc-jp.com/
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■ 【開催報告】北海道・東北研究地区部会2016年度第2回研究会
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 平成29年3月18日(土)に弘前大学教育学部にて北海道・東北地区部会の
平成28年度第2回研究会・総会が行われた。
 研究会の講師は秋田県立大学・総合科学教育研究センターの渡部昌平氏で
ある。本ニューズレターの2月号にて、筆者が書評を執筆した「はじめての
ナラティブ/社会構成主義キャリア・カウンセリング」の著者でもある。今
回のテーマは「ナラティブ・アプローチを教育に生かす~相談から教育への
拡張」であった。
 当日は、小グループに分かれてワークショップ中心をまず行った。具体的
内容としては、どんな意見が出ても否定をしないという約束のもとでのブレ
ーンストーミングである。「煉瓦の目的外の使い方」といったテーマから徐
々に「夫婦間の問題」などの人間関係上の問題へと移っていった。主眼は
「解決志向」に置かれた。渡部氏は、問題を解決できないのは、しばしば思
考が悪い意味で習慣化しているからであると説く。今回のワークショップの
ねらいは、ほかの人は自分が思いも寄らなかった角度から問題にアプローチ
しようとすることを知ることで、そのような習慣化した思考から離れ、自分
の気づいていなかった資源に目を向けるという見方を体験的に学ぶというと
ころにあった。それは言い換えれば、「新たなナラティブ(道徳や倫理、あ
るいは将来像)を構築していく」という考えを学ぶということでもある。
 議論は書評において提起した「若者はナラティブの構築に必要な経験を欠
いているのではないか」にも及んだが、渡部氏の答えは「それで困ったこと
は一例のみ。後は漫画に対する関心からでも広げられる」という自信に満ち
たものであった。参加者の反応はかなり好評であり、参加者同士の踏み込ん
だ交流が行えたことも大きな収穫であった。

    (文責:キャリア教育学会北海道・東北地区部会代表 吉中 淳)
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■ 【コラム】キャリア教育と入学式

                      愛知教育大学 京免 徹雄
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 4月といえば桜、桜といえば入学式…を連想するのはきっと私だけではな
いですよね。会員の皆様の中には、ご家族やご友人(あるいはご自身)が、
この春から新たな学校に進学される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 入学式は卒業式と並んで、日本人にとって最もありふれた行事の1つです
が、海外ではこのようなセレモニーを行わない国も少なくありません。例え
ばフランスの学校では、入学初日に児童・生徒は直接教室に入り、クラスご
とのガイダンス後に授業がはじまります。一方で、日本では入学式はれっき
とした正規の教育活動であり、特別活動に含まれる「学校行事」、その中で
も「儀式的行事」に分類されます。釈迦に説法であることを重々承知しつつ、
平成20年版中学校学習指導要領によると、儀式的行事の内容は「学校生活に
有意義な変化や折り目をつけ、厳粛で清新な気分を味わい、新しい生活の展
開への動機付けとなるような活動」とされていいます。つまり入学式は、子
どもたちに自己のキャリアの節目を自覚させ、これから始まるキャリアステ
ージに希望や意欲をもって参画できるようにする「移行支援」の一環である
と考えることができるでしょう。
 特に近年では、小1プロブレム、中1ギャップ、高1クライシスなどが問
題となっており、学校制度や生活環境の変化に適応できず、不登校に陥って
しまう児童・生徒も少なくありません。この点でも、入学式は「学校で行わ
れる最初のキャリア教育」にならなければいけないと思います。もちろん入
学式は、行事の目標をきちんと設定し、1人1人が活躍できる役割をプロデ
ュースすることによって、新入生を迎え入れる側の在校生にとってもキャリ
ア教育になり得るでしょう。
 しかしながら、入学式を含めた儀式的行事について、キャリア教育の観点
からの分析はあまり進んでいないのではないでしょうか。例えば、学校行事
の残り4つ(文化的行事、健康安全・体育的行事、旅行・集団宿泊的行事、
勤労生産・奉仕的行事)の効果測定はそれなりに行われていますが、儀式的
行事に関しては少なくとも私はみたことがありません。前述のように、儀式
的行事は極めて日本に特徴的な取り組みであり、また教科外活動の中で最も
古い歴史をもった伝統的教育実践でもあります。今後、研究が進展し、児童
・生徒のキャリア形成に資する入学式の在り方について議論されることを願
ってやみません。
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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第86号(2017.3.13発行)


                   発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                 http://jssce.wdc-jp.com/
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■ 書評
  「キーワードキャリア教育 生涯にわたる生き方教育の理解と実践」
     (小泉令三・古川雅文・西山久子編著 北大路書房,2016)

                       愛知教育大学 高綱睦美
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 キャリア教育の必要性が叫ばれるようになってからずいぶん経過し、教育
関係者のみならず,さまざまな立場の方が子どもたちのキャリア形成に関わ
るようになってきた。
  一方で「キャリア教育」という言葉は多くの方が耳にしているものの、そ
の取り組み方は多様で、何をキャリア教育の核にするのかということについ
ては実践者によって違いがあり、その多様さがキャリア教育に対する捉えに
くさの一因となっている。

 新学習指導要領をはじめ教育が大きく動き出そうとしている今、改めてキ
ャリア教育が何を目指しているのか、そして何を核にして取り組むことが重
要であるのか理解しておくことは、これからの社会を生き抜く子どもたちを
支援する上で重要であろう。しかしそうした中、キャリア教育をメインテー
マとしつつ、網羅的に取り扱っているテキストはまだそれほど多くない。

 その点、本書は、キャリア教育の位置づけや理論から諸外国における取組
みまで幅広く扱うと共に、学校段階のみならず生涯にわたるキャリア教育に
ついても取り上げており、キャリア形成に携わる者にとって知っておくべき
知識について、キーワードを挙げながら簡潔に記述すると共に、実践のヒン
トを示してくれている。
 さらに、各章末に記されているColumnでは市民性教育や学習意欲とキャリ
ア教育の関わり、保護者の役割や時間的展望との関わりなど、キャリア教育
を進めていく際に気になるテーマを深く考えていくきっかけを与えてくれる。

 教育現場はますます忙しさを増していく中、本書を読み込みすべてを理解
した上で実践に移すことは難しいかもしれないが、関係する章を手掛かりに、
理論と実践を行き来しながらそれぞれの実態に合わせて試行錯誤を重ねてい
くことがこれからのキャリア教育には必要であり、本書はそのよりどころと
して有効な一冊となると考えている。
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  日本キャリア教育学会ニューズレター 第85号(2017.2.13発行)

                    発行:日本キャリア教育学会 情報委員会
                  http://jssce.wdc-jp.com/
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■ ARACDとは~日本キャリア教育学会とのかかわり~
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ARACDは、1970年にアジア地区での教育と職業のガイダンスに携わる者たち
の学会として、the Asian Regional Association for Vocational and 
Educational Guidance(ARAVEG)第1回研究大会を台湾で開催した。その後、
1997年にthe Asian Regional Association for Career Development(ARACD)
と名称変更を行った。ARACDは、キャリア発達や人材開発を促進する教育、
ビジネス、政府などにおける個人や組織間の情報や経験を支援し交換し合う
人々の共通理解や連携を強化し、アジア全体の繁栄と福祉と平和に寄与する
ことを目的としている。

第2回以降の研究大会開催国は以下である。(  )内は開催年である。
日本(1974)、フィリピン(1997)、マレーシア(1980)、インドネシア
(1983)、インドネシア(1992)、日本(1994)、台湾(1997)、シンガ
ポール(2001)、インドネシア(2013)、日本(2015)、韓国(2017)。
発足してから47年を経過したが、ようやくここ3回の開催が定期的に行われ
ている。開催国における政治や経済の不安、自然災害などに見舞われなが
らも、ARACDは、究極であるアジアの繁栄と平和を目指して活動を続けて
きた。

わが国の日本進路指導協会や日本キャリア教育学会(前日本進路指導学会、
元日本職業指導学会)がながらくその運営を支えてきた。発足のきっかけ
となった1967年のARAVEG 集会や発足を決定づけた1969年の運営委員会の
双方が東京で開催されたことからもその深いかかわりが半世紀に及んでい
ることがわかる。

現在の役員は以下である。会長はARACD研究大会の前回開催国、副会長は、
前々回の開催国及び次回開催国から出すことになっている。

◆会 長:三村隆男(日本)
◆副会長:H. Sutijono, Drs., M. M.(インドネシア)
     Kim, Hyuncheol(韓国)
◆事務局長:岡部敦(日本)
◆理 事:Mantak Yuen(香港)、Raza Abbas(パキスタン)、
     Hsiu-Lan Shelley Tien(台湾)、Salim Atay(トルコ)、
     Saeid Safaei Movahhed、Maryam Behnoodi(イラン)、
     Steven Krauss(マレーシア)、
     TAN Soo Yin, Ph. D.(シンガポール)、
     藤田晃之(日本)、川崎友嗣(日本)
◆事務局:京免徹雄(日本)、家島明彦(日本)
◆顧 問:Darryl Takizo Yagi(米国)、
     Lui Hah Wah Elena(シンガポール)、
     Mohamad Surya(インドネシア)、
     萩原信一(日本)、下村英雄(日本)

       (文責:日本キャリア教育学会会長、ARACD会長 三村隆男)
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■ 書評:『はじめてのナラティブ/社会構成主義キャリア・
      カウンセリング-未来志向の新しいカウンセリング論』
     (渡部昌平著、川島書店)
                         弘前大学 吉中淳
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 キャリア・カウンセリングにおいて「未来」というテーマは厄介である。
キャリア教育は基本的に未来の準備をさせる活動である。ところが、カウン
セリングで著名なロジャースは、「今、ここが大事」と未来のことに言及す
るのを避けているかのようである。
 また、因果関係の解明こそが使命と考える研究者たちは、「未来はある意
味で確定しており、後は要因を特定するのみ」といった「決定論」を暗黙の
うちに前提としているともいえる。研究者が研究についてそう考えるのは自
由だが、一般の人々が自らの人生について、そのような決定論的見解をもち、
しかも、その内容がネガティブであったら、その人生は息苦しいというほか
ない。
 本書の「ナラティブ/社会構成主義」というのはこの難題に対する一つの
回答といえる。未来は客観的に決まっているのではなく、本人の気づきやナ
ラティブによって構築されるものであると。それはある意味で、近代科学に
対する挑戦にも見える。
 本書は、「はじめての」とあるように、優しい語り口で、概念図をふんだ
んに利用しながら社会構成主義によるキャリアカウンセリングをわかりやす
く説明している。本書を片手に取り組めば、筆者のような実践の素人でも、
ともかく一通りのことはできそうという見通しを与えてくれる。
 とはいえ、気になったこともある。本書でいう「解決」とは結局、クライ
エントの納得なのか。だとしたら、クライエントが一定の理性的で妥当な判
断ができるということが前提とされよう。最近の若者は「男はお笑い・女は
ファッション」が関心事であるとのことだが、ナラティブの構築に必要な経
験を欠いていることも多いのではないか。実際、本書の事例は、この技法の
土俵に乗せるまでの著者の苦労の記録にもみえる。本書の技法の前提を満た
すための高校までのキャリア教育という課題も浮き彫りになったように感じ
た。
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